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君が旅立つまでのこと

それは限られた時間を刻むこと - ドッグイヤーで時は流れていく

君が旅立つまでのこと_扉

”ドッグイヤー” という言葉があります。
犬が人間の7倍の速度で成長することから、目まぐるしい速度で進歩する様を表していて、IT業界の技術革新を表す際に良く用いられています。

実際の犬の成長は、単純に人の7倍ではありませんが、それでも平均で約5倍す。
その速度で歳をとり、成犬のピークを迎えた後は衰えていきます。
老犬にとってのドッグイヤーは、何を意味するのでしょうか?

突然にやってくる愛犬の闘病

ネット上に散在している、飼い主さんたちの体験談を読むと、愛犬の命を賭けた闘病は、突然やってくることが多いようです。筆者の場合もそうでした。

最近、どうも体調が悪そうだな。
いつもなら元気一杯でじゃれついてくる愛犬の、ちょっとした変調。
いつものように、2~3日様子を見たらきっと良くなるだろう。

――あれ、今回はどうも違うようだな。

何となく嫌な予感がして、動物病院に連れて行く。そんなときに、突然に獣医師から、予期せぬ病名を告げられるのです。

――重病。
――回復は望めない。
――余命は……

医師からその言葉を聞いたとき、飼い主はきっと深い絶望の底に落ちるでことしょう。
これもまた、筆者が経験したことです。

絶望の中身は1つだけではありません。
――この子がいない生活など考えられない。
――医療費は一体いくらかかるの?
――仕事があるのに、投薬の時間は守れるのか?
――点滴の針が、自分に射せるだろうか?
  ……

飼い主が恐れるのは ”時間”

さまざまな思いが、一気に飼い主の心中に去来することでしょう。
その中でも、飼い主が最も恐れを抱くのは、”時間” に対する不明さなのではないでしょうか?

はじめのうちは、「あとどれくらいこの子と一緒にいられるのだろう」という恐れからはじまります。
やがて闘病(飼い主にとっては看護、介護)が始まり、それが日常のものになってくると、恐れの内容が変わってきます。
「この看病はいつまでつづくのだろうか?」と……

無限に続くかと思われるその時間の重さに、飼い主の心は不安で一杯になります。

しかし、良く考えてみてください。本作でも一般的な犬の闘病期間について触れていますが、その期間は慢性疾患の場合で1年。長くて2年。重篤な疾患、急性疾患は数か月です。

別れの時は確実にやってきます。恐らくそれは、とてもあっけない形で訪れることでしょう。

筆者の愛犬ピーチーの場合は、体の震えが止まらず、息が荒いというちょっとした体調の変化があり、たまたま訪れた主治医の病院で肺ガンの恐れを指摘されました。正確に言うと、ピーチーにはその体調の異変とは別に臀部に大きな膨らみがあり、その膨らみの理由を探るために撮った下半身のレントゲンに、たまたま肺の影が映り込みました。

体の震えも、息の荒さも軽微なもので、それがすぐさま重篤さをしめすものではなく、普通ならば少し様子を見ましょうとなる程度のものでした。

ピーチーが天国に旅立ったのは、それからわずか1か月後です。
(この詳細は別の章で触れることにします)

”ドッグイヤー” と表現されるように、犬は歳を重ねるのが早く、高齢になってその速度が落ちたとしても、人間に換算して1年で4~5歳も歳を取ります。
病気の進行もそれと同じく、”ドッグイヤー” で進むのです。

ドッグイヤーは悲劇なのだろうか?

病気の進行の速さは、飼い主にとっての悲劇です。
しかし、そこには別の側面もあります。
私たちは、無限の介護を恐れる必要が無いということでもあるのです。

「この子とは、あと1年ほどしか一緒にいられないんだ」
もしも先の見えない闘病を恐れる日があったとしたら、そう考えてみると良いと思います。残された時間を慈しむ事で、愛犬との付き合い方は変わってくるでしょう。
筆者がそうであったようにです。

「長い人生の中の、たった1年をこの子のために使おう」
そう考えるのは、無限の先を想うよりもずっとたやすいことではないでしょうか。

そして幸運にも1年を乗り越えられたなら、そこからまた「この子とは、もうあと1年ほどしか一緒にいられないんだ」と、思いを新たにすれば良いのです。

愛犬の闘病は、残された時を刻むことだと思います。
どうかこれからの ”時間” は、見えない何かに怯えるのではなく、まっすぐに愛犬のために費やしてあげてください。
それは愛犬のためだけにでなく、後に残される飼い主、つまり私たちのためにでもあると思うのです。

 

――第1章|犬の闘病とは(6/9)つづく――

この記事について

作者:高栖匡躬
 ▶プロフィール

表紙:アマンさん(飼い主:アマンママさん)

――次話――

愛犬が病気になると、よく「頑張って」と励まされることがありますね。
しかし「頑張って」は、時には危険な言葉でもあります。
励ましのはずなのに、逆に心の負担になってしまうことがあるからです。
人の心は、犬ほどには強くはないのです。

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――前話――

愛犬が闘病生活に入り、やがて介護を必要とする頃――
飼い主はやり切れない思いを抱えてしまうものです。
いつか来る別れへの不安。
治してあげられないくやしさ。
病気にさせてしまったという自責。
色々な思いが混じり合って流れる涙があります。

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第1章の初話です
この連載の初話です
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