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ピーチーは不思議な子 - どうするか安楽死【闘病記】

ピーチーは不思議な子

別れまでの12日(11/18)肺がん闘病記

ピーチーは子犬のころから、食いしん坊でした。

いつも見事な食べっぷりで、
かつて胆管閉塞を患い、いつ胆嚢が破裂するか分からないという時でさえ、医師が驚くほど食欲がありました。
飼い主はとしてはその食欲が、決して尽きる事はないと思っていました。

 ●

しかし、ついにそのピーチーの食欲も尽きようとしていました。
健康な時と違い、介護の段階に入り終末期が訪れると、食欲が別れまでの時間を暗示します。

走れなくなる。歩けなくなる。筋肉が落ちて、体が弱って行く――
そんな姿を見るよりも、食欲がなくなることの方が、何倍もつらかったですねえ。

以下、当時のブログからです。

3月26日 夜|日に日に落ちていく食欲

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ピーチーは酸素テントの中で、せわしなく動いています。
もしかすると、身の置き所がないのかもしれません。
ちょっと動くと、上の写真のように、すぐに外に出たがります。

外に出たら出たで、すぐに苦しくなって、また酸素ブースに逆戻りの繰り返しです。

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どうした? 出たいのか?

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でも、外に出たら苦しくなるぞ。

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今日のピーチーの様子ですが、自分からは食事を食べなくなりました。

■ ロールケーキ  食べない
■ ラム・グリーン・トライプ  食べない
――そして、何と――
■ ウニ  食べない

ピーチーが大好物のウニを食べないのは、飼い主にとって相当にショックな出来事です。これまで、どんなときにも必ず食欲を全開にさせた、最後の切り札でした。

深刻な状況 - 安楽死も選択肢に

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そして今日は、1日遅れで主治医の先生に往診をしてもらいました。

ピーチーを診てくださった主治医曰く、
「今は相当苦しいはずです」

酸素テントの中では、自力で立ち上がって歩ける状態ですが、どうやら思っていた以上に、深刻な状態になってしまったようです。

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「これからもっと苦しむのでしょうか?」
と、主治医に訊ねました。
「何とも言えません。循環器系の疾患の場合は、段々と火が小さくなって行って、すっと消えるという最期がありますが、呼吸器系はそうはなりませんからね」
主治医はいつものように淡々と、しかし優しい口調でした。

そして――、さらに続けてこう言いました。
「お考えになりたくないでしょうが、そろそろ別の決断をされる御覚悟も必要かもしれません」

それはもちろん、安楽死を示唆する言葉です。

 ●

僕自身は安楽死は否定はしません。むしろ積極派と言える立場です。
しかし、具体的にその時期については、明確な考えは持っていません。
ピーチーはこれまで何度も死線を乗り越えてきました。今よりも苦しい状態ばかりでした。それに比べると今は、まだそこまでではないといいう気もしてきます。

 ●

「この程度で皆さん、ご決断されるのですか?」
と、主治医に訊きました。
「呼吸器は見た目が苦しそうですから、犬がと言うよりも、飼い主さんの方が見ていられなくなるのです。もっと早く決断される方が沢山いらっしゃいます」
それが主治医の回答です。

 ●

つまりピーチーは、今の状態でもう、安楽死を選択してもおかしくない状態ということのようです、

うちの場合は、もしかすると少し特殊なのかもしれません。
ピーチーはこれまでに大きくは2回、胆管閉塞と劇症肝炎で、危険な状態になりました。それ以外でも、癲癇のときには酷い重積発作があり、脳腫瘍を覚悟していました。

これまで何度もピーチーの厳しい状況を見てきていために、僕と奥さんは、キツイ状況に慣れてしまっているようです。多くの飼い主さんならば、いたたまれない状況を、たまたま静観できているだけなのですね…… 

不思議な出来事

ちょっと話は変わりますが、実はこの3日で不思議なことが起きました。

まずは、ピーチーが歩きやすいように敷いてあったコルクマットが相当痛んだので、いつも買っているメーカーのものを買おうと思ったのですが、丁度欠品で注文できませんでした。

次に、トイレシートが残り少なくなったので、買おうとしたところ、いつも買っていた商品が欠品でした。

更に、ピーチーと外出できるようにと注文していた酸素ボンベがなぜか届かず、販売店に問い合わせてみたら、発送されていませんでした。

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偶然と言えば偶然ですが、うちの奥さんはこう言いました。
「ピーチーが、『もう行くから、良いよ』って、言っているんじゃないかな?」
「そうかもしれないね」
と、僕は答えました。

神様がくれた時間

この偶然の話とは違うのですが、僕はこのところの3日間は、神様からもらったようなものだなと思っています。
偶然に偶然重なった結果、ピーチーが今まだここに生きているように思うのです。

偶然の始まりは今月の初めでした。
ピーチーの脚が、突然化膿したのです。免疫抑制剤を飲んでいると、化膿しやすいのだと主治医からは言われました。

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その時、ついでに病院でレントゲンを撮りました。
ピーチーは以前から右のお尻に以前から大きなコブがありましたが、悪性ではなさそうで、放っておいたのですが、先日、首の後ろにも似たようなコブができたので、念のためにレントゲンをお願いしました。幸いコブは両方とも、悪いものではなさそうでしたが、その時に肺に影が映っていました。

 ●

その2週間後、つまりピーチーに今回の予兆が現れ、呼吸がおかしいと気付いたときには、そのときの事がピンときました。だから異変から時間をおかずに、すぐに病院に行ったんです。前の検査が無かったら、もうしばらくは様子見をしていたはずです。

主治医も前のレントゲンがあったので、診断が迅速であったと思います。
そしてそこから我が家では、ピーチーが肺がんである事を視野に入れて、様子を観察するようになったんです。

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肺に疾患があることは明らかだったので、酸素を使うことを決めるのにも、時間を要しませんでした。

もしも23日に、携帯用の酸素ボンベを買っていなければ……
もしもその夜のうちに酸素テントを発注し、24日に届いていなければ……
ピーチーは、呼吸困難に陥り、もうここにはいなかったはずです。

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更に言えば、21日の体力がまだあるうちに、てんかんの大発作を起こしておいてくれたことも、今となっては幸運だったと思えます。状況が悪くなってから発作を起こしたら、大変なダメージであることでしょう。 

今のピーチーは……

僕が家で仕事をしているときには、ピーチーは酸素を吸いながら、僕の机の下で寝ています。

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いつもお前はここにいるなあ。

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時々、足で触って遊んでやります。

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ピーチーはちゃんと、遊んでもらっていることを認識しています。僕の方を見て、ときどきゆっくりと尻尾を振ります。

こうやって、できるだけ普通に、楽しい時を過ごしたいと思います。

 ●

今日は、ピーチーの大好物のウニを、豆乳といっしょにフードプロセッサで砕いてから、シリンジで飲ませてやろうと思っています。

恐らくはそれが、ピーチーにとって、最後のウニになるでしょう。
最後の時の決断は、僕と奥さんでします。

 ●

ピーチーはまだ、僕と奥さんの姿を見る目に生気があります。
それが無くなった時が、決断の時と思っています。
明日かもしれません。もうちょっと先かもしれません。
それとも今夜、病状が急に悪化したら、ピーチーは自分から逝ってしまうのかもしれません。

 ●

ピーチーは不思議な子です。
これまでに何度も死線を乗り越えてきましたが、そんな大病をするときには、必ず僕と奥さんの仕事が休みであったり、自由が効くときでした。

二人ともが全力で病気に向き合える時に、なぜかピーチーはやらかしてしまうのです。
今回もそうです。

本当に不思議な子です。
ピーチーは……

 

――第4章|看取りの記録を読もう(14/29)――

この記事について

作者:高栖匡躬
 ▶プロフィール

表紙:今回の表紙は、ピーチーです。

――次話――

初めての強制給餌――ピーチーは食いしん坊だったので、こんな日が来ることなど、想像したことさえありませんでした。
しかしどんなに体が弱っても、水飲みとトイレには、自力で行こうとします。
一生懸命に生きようとする姿。
犬はすごいです。

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――前話――

この日は、ピーチーの月誕生日。
劇症肝炎から生還して以降、わが家は毎月誕生日を祝っていました。
「今月も生きてくれてありがとう」と。
酸素はテントとマスクを使い分け。
呼吸が苦しい以外は、元気なピーチー。
肺がカートリッジ式だったら良いのにね――

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肺がん闘病記の初話です         
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