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君が旅立つまでのこと

別れの瞬間は特別なものか? - 褪せない思いと、ぼやけていく境界

君が旅立つまでのこと_扉

死にゆく準備、死なせゆく準備(2/6)

愛犬の看取りというと、多くの方が「臨終の瞬間に立ち会えたかどうか」という意味で捉えられているように感じます。

もちろん飼い主ならば、立ち会えるものならば立ち会いたいという心境でしょう。
しかし ”その瞬間” をあまり意識しすぎない方が良いように思います。

長年一緒に生きた愛犬との別れは、一瞬で終わるものでないからです。

別れの瞬間に立ち会うということ

愛犬の死は、飼い主にとって特別な意味を持つものです。しかしながら、飼い主の全てが死の瞬間に立ち会えるわけではありません。

入院中の病院で病状が急変した。朝起きたら、愛犬が息をしていなかった。或いは会社や学校から帰ってみたら、愛犬が息を引き取った後だったなど……
誰も立ち会うことなく、愛犬がたった一匹で旅立ってしまうケースも意外に多いもののようです。

多くの飼い主は、そのような局面に遭遇すると、看取ることができなかった自分を責めることでしょう。筆者の周辺にもそのような方が何人かいます。

しかし、死の瞬間というのは、そんなに大切なものなのでしょうか?

別れは一瞬で終わるようなものではない

ここで前話に書いた、”生きざまと死にざま” という考えに方に、もう一度触れてみましょう。

もしも犬にも、生きざまと死にざまと言うものがあるのならば、愛犬の死の瞬間は、それほど決定的な出来事ではないように思えます。

筆者の経験に照らせば、愛犬との別れは瞬間ではありません。それは愛犬がまだ生きているうちから、予感のようなもので始まり、愛犬が息を引き取り、飼い主がその死を受け入れるまでの間続きます。それは愛犬の一生を辿り、生きざまを再確認する時間でもあります。

ぼやけていく別れの境界

振り返ると、筆者にとって愛犬との別れの瞬間は、当時確かに大きな衝撃を伴っていました。しかし時を経るにしたがってその光景は、周囲の時間にぼやけて境界をなくしています。今となっては臨終の瞬間は、それほど特別なものではなくて、連続した別れの時間の中の、たった一つの出来事に姿を変えているのです。

それに対して別れの前後に経験した思いは、形を変えながら何度も心に去来し、愛犬の生きざまと重なって、今も鮮明さを失うことがありません。

このことが何を意味するかというと、長い時間の尺度の中では、愛犬との別れの瞬間の記憶よりも、そこに至るプロセスや、そこから想起される愛犬の生きざまの方が、飼い主にとって遥かに大切であるという事です。

翻ってその考えを突き詰めていくと、それは今この瞬間――、瞬きをしている間に愛犬が死を迎えたとしても、悔いはないと思えるほどの接し方が、私たちには出来ているのかという、自身に対する問いかけにも繋がっていきます。

さて、その問いへの回答ですが、多少努力をしたからといって、短時間で獲得できるような簡単なものではなさそうです。しかしそうかといって、何かの修行や苦行を積むような、特別なことでもないように思います。

恐らくそれは犬を家族として尊重し、普通に過ごすことの中で、長い時間を掛けて自然に培われる信頼感のようなものなのでしょう。

もしかすると ”犬を飼う” という行為は、『今この瞬間に、この子が旅立っても悔いなし』という自負と覚悟を、飼い主が追い求め続けていくことなのかもしれません。

愛犬との別れに想うこと

筆者は3年前に、愛犬のピーチーを亡くしました。
その死は、これまでの筆者の生きざまに較べてもったいないほどの、とても立派な旅立ちでした。

その死に様を見た今、筆者はこれから、愛犬の死にざまに少しでも近づけるような、意義のある生き方をしていかなければならないと思っています。

きっとそれは、そう簡単なものではないでしょう。
いつか筆者が死ぬその瞬間に、ピーチーは、「良くやった」と言ってくれるでしょうか?

せめてピーチーから「人間にしては良くやった方だよ」と、褒めてらえるように精進したいものです。

 

――第2章|犬の死とは(2/10)つづく――

この記事について

作者:高栖匡躬
 ▶プロフィール

表紙:アインさん(飼い主:アインママさん)

――次話――

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――前話――

「生きざまと死にざまは同じ」という言葉があります。
『一生懸命に生き抜いた人の死は、何も思い残すことが無く、爽やかなものである』
という意味だと思っています。
犬は無心で一生を駆け抜けていきます。
きっとその死は、爽やかなはずです。

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第2章の初話(前話)です
この連載の初話です
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